第二回のダイジェスト
1.「人を大切にする」には正しい方法があった!
どの企業も「人を大切にしよう」と考えていますが、うまくいっている企業といっていない企業の差はなんでしょう。結果を左右するのは、相手に合わせたコミュニケーションを取ることができているかという点が大きいのです。この実態をご紹介します。
2. 間違ったモチベーションのあげ方で心の距離が離れていませんか?
若手社員は、給与や懲罰といった「外発的モチベーション」よりも、自らやりがいを感じる「内発的モチベーション」によってやる気を持ち、簡単に辞めにくくなるとご存知でしょうか。自らやりがいを感じてもらうためには、上司や先輩が自分の価値観を押し付けず本当の意味で「相手の立場に立って」対応することが重要です。
3. 自分からは見えない相手の内発的モチベーションがわかるDiSC®理論
相手の視点に立って理解するために、さまざまな現場で私が使っているお勧めの考え方が、DiSC®理論です。DiSC®理論は、自分自身が周りにどう見られているかわかり、若手社員が何を望んでいるか、読み解くことができるシンプルで使いやすい理論です。特性を理解することができると、若手が望む接し方をすることができ、若手社員の成長や定着を促進することができます。
怒る、注意する、褒める、あなたのやり方は古くなっていませんか?
前回は、選ばれる建設企業になるために、DiSC®理論を活かして、あなた自身が若手社員からどう見られているかを把握し、さらに、皆様が接する若手社員の特性を理解していただきました。ご自身や、若手社員がDiSC®理論でどのスタイルに該当するか、改めて下記の図から判断してください。(DiSC®理論に基づくアセスメント=客観的な評価手法を正確に診断するには、ライセンスのある事業者によるweb診断が有効です。)
あなたは、行動や話すペースが早いですか?ゆっくりでしょうか(円グラフの縦軸)。また、物事を判断する際、人志向が強いでしょうか、仕事志向でしょうか(円グラフの横軸)。円グラフの縦軸・横軸でご自身の位置する箇所に書いてあるアルファベットが、DiSC®理論でのあなたのスタイルかもしれません。
【図1:DiSC®理論の解説 会社の現場監督合同会社ホームページより引用】 |
私がよく、DiSC®理論を説明する際にご紹介する言葉で、連合艦隊司令長官、山本五十六の名言「やってみせ、言ってきかせ、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ。」があります。この言葉だけでも素晴らしいのですが、現代に合わせて個別化するとしたら、「やってみせる」のも、「言ってきかせる方法」も、「ほめやる方法」も、実はDiSC®スタイルごとに異なる関わり方が必要です。この名言を実行するだけでも難しいのに、さらに個別化するのか!と難しく感じますか?実は、そんなことはありません。
皆様も、怒られ方によって、ためになった!と感じることもあれば、イラっとした、もうちょっと言い方があるだろうに・・・と感じた経験はないでしょうか。このように、人には怒られ方1つとっても、好む関わり方があります。褒め方については、第一回のコラムでお伝えしましたが、全員の前で大げさに褒めることを好む人(Dスタイル)もいれば、自分よりチーム全体を褒めてもらった方が嬉しい(S スタイル)と、異なる対応が有効です。つまり、全員に同じように接していては、うまくいかないこともあるのです。
ある建設業の社長がこんな経験を教えてくださいました。社長は、若手社員に対して厳しく接することで早く成長させようとしていました。作業が遅いと叱り、ミスをするとすぐに注意をする。「早く覚えるため」に、「社員のためを思って」あえて厳しく接していらっしゃいました。そんなある日、若手社員が突然、「辞めます」と言い、理由も伝えずに退職してしまったそうです。「ここまで育てたのに、なぜ辞めるんだ!」と感情的になる社長の想いと裏腹に、退職した社員が同僚に話していたのは、「毎日怒られてばかりで、何が正しいのかわからなくなった」というコミュニケーションの掛け違いと、離れてしまった気持ちでした。
「怒ること」が必ずしも悪いわけではありません。問題は、相手に合わせた対応をしていなかったことにありました。同じように注意するにしても、若手社員によってどのように伝えるか、どのような関わり方を望んでいるかは、相手の特性によって異なります。自分が良かれと思うやり方や、昔の社員はこれが効いたという手法は、今の若手社員には通じないのです。
褒めることは大事だけれど・・・優しくすればいいわけでもないのです
一方で、「じゃあ、怒らずに優しくすればいいのか」というと、これもまた問題です。例えば、現場で出会ったあるリーダーは、最近の若手社員は厳しくしすぎると心が折れてしまうと聞き、若手社員に対してなるべく注意をしないように接していました。「ミスしても大丈夫だよ」「ゆっくりでいいよ」と言っていたのですが、結果として若手社員はなかなか成長しませんでした。私が若手社員と話をした際には、仕事のスピードも上がらず、なかなか成長しないという周囲の評価とは逆に、若手社員は自分の現状に満足し、成長意欲を持っていないようにも感じました。つまり、ぬるま湯状態で、自分がいま何ができていないのか、どのような可能性があるのか、成長できる可能性を知らずに過ごしていたのです。
優しさだけでは社員は育ちません。むしろ、時には厳しさも必要です。大事なのは、「ただ怒る」「ただ褒める」のではなく、相手の望む接し方で「やってみせ、言ってきかせ、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ。」を実施することなのです。では、どうしたら相手視点で対応をすることができるのか、これを、DiSC®理論で解説します。
DiSC®を活用すると、自分の思っても見ない対応が可能になる
ここで、あなたの周りの若手社員に具体的にどのように接するとよいか具体的にどうすれば若手社員と効果的に向き合えるのかについて考えてみましょう。まずは、対象となる若手社員のDiSC®スタイルを、図1を使って読み解いてください。次に、若手社員それぞれのDiSC®スタイルに合わせた接し方を、以下のポイントから見つけてみてください。
Dスタイル(主導型)
自信があり、リーダーシップを取ることを好むスタイルです。彼らにはチャレンジングな仕事を任せ、成果を強調してあげるとモチベーションが上がります。ただし、指示ばかりでは反発を招くこともあるので、自分で決めさせるなど、自己裁量の余地を残すことが大切です。彼らが最も好むことは「主導」なので、コントロールされることを嫌います。
iスタイル(感化型)
社交的で、他人と話すことを好むスタイルです。彼らには、成果を周りに認めてもらえる場や、チームで働ける環境が適しています。ただし、詳細な業務やルールを無視しがちなので、ルールの重要性を理解させる工夫が必要です。また、人志向が強いので、「信じているよ」と約束すると、モチベーションが上がります。
Sスタイル(安定型)
チームワークを重視し、安定を求めるスタイルです。彼らには、先々までの過程を伝えて安心してもらい、じっくりと成長できる場を提供することが重要です。突然の変化や過度なプレッシャーはストレスになるため、変化が必要な場合は十分な説明とサポートが不可欠です。急に「なにかやるぞ!」と言ってみたり、過程を無視して結果だけを求めるとモチベーションが下がります。
Cスタイル(慎重型)
分析力があり、慎重に行動することを好むスタイルです。彼らには、正確さや論理的な説明が求められます。褒める場合も具体的な根拠を示すと効果的です。また、時間をかけて慎重に仕事を進めるので、急かすことなく、じっくり取り組ませることがポイントです。多くの情報や資料を渡して、自分で検討できるようにするとモチベーションが高まります。
DiSC®理論を活用すると、このように若手社員一人ひとりの特性を理解し、その特性に合わせた接し方ができるようになります。例え、みなさんご自身がこの対応を心地よく感じなくても、相手にとっては心地よい対応であったりします。自分の価値観ではなく、本当の意味で相手の立場に立って考え、行動することで、若手社員は自分が大切にされていると感じます。結果として、会社に居場所を見つけ、成長意欲を持って仕事に取り組むことができるようになります。
ここで、弊社のメンバーYさんが前職で経験した話をご紹介します。休憩時間を仲間としっかり取り、その時間を、お互いを理解するコミュニケーションの場と位置付けていたYさんに対し、彼女の上司は、休憩時間はなるべく早く戻り、仕事の準備をすることがやる気の現れという考え方を持っていたそうです。当然ながら、しっかり休んでいるYさんに対し、「仕事のやる気が足りない、サボっている」と捉え、何時に誰とどこに行ったのか、厳しく管理するようになったとのことでした。そのことに気づいたYさんは、上司に自分の考えを伝え、上司も誤解をしていたことに気づき、お互いの信頼関係はより高まったとのことです。上司がY さんに言った言葉は、「あの時、君が自分の考えを伝えてくれなかったら、自分の考え方だけを正解と捉えて、大事な部下を失うところだった」ということでした。DiSC®理論で読み解くと、Yさんはチームワークを重視するS(安定)スタイル、上司は結果とスピードを重視するD(主導)スタイルが如実に現れています。お互いがDiSC®理論を知っていたら、このようにすれ違う前に「Yさんはゆっくりと仲間と関わってチームを作りたいのだな」と衝突する前に気づくことができるのです。このように、物事の捉え方は人それぞれです。そして、人はよく、相手と自分の「違い」を、「間違い」と捉えてしまいます。「違い」は単なる「違い」であることに気づくと、相手のことを本当に尊重できるようにもなります。
肝に銘じておいていただきたいことは、「自分の常識は相手の非常識」という事実
いよいよ、3回に分けて連載してきた本コラムも、終わりが近づいて参りました。このコラムでお伝えしたいことは、DiSC®理論を覚えて欲しいというものではありません。どのようなツールや理論を使ったとしても、「相手に関心を持ち、それを言動で示すこと」が最も大切だということです。DiSC®理論を使うことは、社員の理解を深めるための一つの手段に過ぎません。重要なのは、その理解を基に、社員一人ひとりに関心を持ち、それに応じた対応を日々の行動で示すことです。
そのために、まずは自分自身がどう見られているかを知り、相手と自分は違うのだということを認識してみてください。また、繰り返しお伝えしている「自分の常識は相手の非常識」という点も、ぜひ忘れずにいてください。自分が良かれと思っている対応は、実は若手社員にとってはストレスになっていることもあるのです。本コラムの第一回でも書きましたが、社会的に世の中の流れは、個を重視する風潮になっています。働く上でも個人を大切に、やる気や心を重んじる流れになっている中で、建設業では業務の特性と業界的な傾向から、まだその考えが浸透していないかもしれません。皆様の会社が率先して個人を尊重するコミュニケーションを取り入れ、「若手からも選ばれる企業」になってください。コミュニケーションの改善は資金がかかりません。取り組むと決めることと、正しい方法を選択することで、どの企業も実現できることです。DiSC®理論については、弊社での診断も可能です。いつでもご相談ください。