東建月報2024年12月号の「やさしい日本語」基礎編はいかがでしたでしょうか。
さっそく「やさしい日本語」で話してみた!という方はいらっしゃいますか?効果がありましたらお聞かせいただけるとうれしいです。
今月号は日本語を文化の面から考え、「やさしい日本語」に言い換えていきます。また、現場でよく使う表現を言い換えられるよう取り上げました。
「やさしい日本語」スイッチオン!にして読み進めてください!
現場がますます活気づくこと間違いなしです!
「やさしい日本語」基礎編のダイジェスト
1.建設分野の外国人材に多い日本語初級レベル者には「やさしい日本語」に言い換えると圧倒的に伝わります。
2.「 やさしい日本語」に言い換えるときの5つのルールがあります。
ルール1 簡単な言葉を使う
ルール2 短い文で話す
ルール3 大切なことを優先して伝える
ルール4 「です」「ます」「~てください」を使う
ルール5 わかりやすく、ゆっくり話す
「やさしい日本語」で伝えたあとは内容を復唱してもらい確認します。
3.「 やさしい日本語」で指示が伝わりやすくなります。日本人と外国人材の距離が縮まり、信頼関係へとつながるでしょう。
以心伝心の日本語は便利?不便?
12月号の「やさしい日本語基礎編」で日本語が外国人に理解しにくい点があることに気付かれたかと思います。1月号では、日本語には「曖昧な表現が多い」ということに焦点をあてていきます
私たち日本人は幼いころから周囲の状況を察する文化の中で生きてきました。
例えば、以下のような会話です。

<会話1>
A:「暑いね。」
B:「そうですね。」(エアコンをつける)
<会話2>
店長:「ここ汚れてますよ。」
アルバイト:「はい。」(すぐに掃除する)
このように多くの日本人は状況から言葉の意味を理解することができます。
「以心伝心」、「阿吽(あうん)の呼吸」という表現もその一例です。
日本語のようにはっきり言わなくても会話が成り立つコミュニケーションのスタイルを「ハイコンテクスト(高文脈)文化」といいます。
対する「ローコンテクスト(低文脈)文化」ははっきり言葉にしないと伝わらない文化です。「暑いね。」→「そうですね。」は暑いことに共感しただけで、他の意味は含みません。みなさんは、どちらのスタイルがコミュニケーションしやすいと感じますか?

外国人向けの日本語の教科書にもこんな場面があります。
[飲み会に誘われる場面]
A:「今日、飲みに行きませんか?」
B:「すみません、今日はちょっと…」
日本人であれば「今日はちょっと…」が断っていることは、すぐに理解できますが、外国人には理解しにくいでしょう。そのため、日本語の教科書では学習初期の段階から外国人に日本語の特性を理解できるよう提示していると考えられます。しかしながら、外国人材と一緒に仕事をする際はどうでしょうか。はっきり明言しない表現では誤解を招く可能性もあります。相手に失礼にならないかということを気にするよりも、正確に伝わるコミュニケーションを優先する必要があります。配慮の表現については、日本語の上達に合わせて理解してもらえればいいのです。
曖昧な日本語の表現はこんなにある!

右の図をご覧ください。私たちが、普段使っている日本語ですが、外国人が迷う表現が非常に多いことがわかります。皆さんも、図のような表現で外国人材に伝わらなかったというご経験もあるのではないでしょうか。「日本語で伝える」ということの課題が見えてきます。
今月号では右の図にある以下の項目について取り上げます。
・「はっきり言わない」
・「定義が人それぞれ」
これらについて、「やさしい日本語」を使って、わかりやすく伝わるよう一緒に考えていきましょう。
「やさしい日本語」は正解がありません。伝われば、それが正解です。どんどんチャレンジしてください!
曖昧な表現をわかりやすく伝えてみよう
【数字を使う】
「できるだけ」「まめに」「なるはやで」といった表現は日本人同士なら、その場の状況に応じて、なんとなく感覚が伝わります。しかしながら、外国人材に使う場合はこの感覚が日本人とずれる可能性があります。明確に伝えるには、ズバリ!数字で具体的に表すことです。以下のような例の場合、みなさんは数字を使ってどのように伝えま
すか?一緒に考えてみましょう!
例1)「できるだけ」
「できるだけ早く」と言えば、日本人なら一番にその作業に取り組むのではないでしょうか。しかし、外国人材の中には「できなかったら、やらない」と解釈する人もいます。ミスコミュニケーションが起きる可能性がある表現なので、「いつまで」とはっきり期日を提示することでミスを防ぐことができるでしょう。
例文)「できるだけ早くやって」
やさしい日本語)「11時までに(この作業を)してください」
例2)「まめに」
みなさんは「まめに」を様々な場面で使われているかと思います
試しに「まめに」の英語訳を検索してみました。とあるイギリス出身の英語の先生の回答です。
質問『「 まめに休憩、はさんでね」って英語でなんて言うの?』
回答『 もし上司として言うならば、休憩時間の頻度と長さについて明確な指示を出すと良いでしょう。』
と書かれています。(出展:「DMM英会話なんてUknow?」)
日本語の曖昧さをよくわかっている方ですね。外国人から見ても、ここまではっきり述べないと伝わらない言葉として感じているのでしょう。私もまったく同意見です。以下の例文、みなさんは頻度と長さをどのように伝えますか?
例文)「暑いからまめに給水して」
やさしい日本語)「とても、暑いです。30分仕事をします。そのあと、水を飲んでください。5分休みます。また30分仕事をします。そのあと、水を飲んでください。5分休みます。」
いかがでしょうか。文が多くなりますが、正確に伝わり、外国人材の安全が確保されます。このように具体的に表現することで、次第に「まめに」の感覚が伝わるようになります。伝わるようになったら「まめに給水して」でOKです。このように周囲の人が話し方を変えていくことで「やさしい日本語」から普段使いの日本人の日本語へとス
テップアップできます。
【視覚化する・言語化する】
「きれいに」「きちんと」「キリのいいところ」など定義が人や状況によって異なる表現があります。
例えば、きれいに掃除したつもりなのに「きれいになってない」と言われた経験はありませんか?双方の「きれい」の基準が一致していなかったために起きたミスコミュニケーションと言えるでしょう。
現場では相手が外国人材であるため、日本人が求める状態と異なることも考えられます。実物や写真を見せ視覚化したり、より詳細に言語化することで、すぐに伝わり、業務をスムーズに進める
ことができます。
例)「きちんと」 → 実物を見せながら伝える
例文)「服装はきちんとするように」
やさしい日本語)「グエンさんの服はダメです。(自分の袖を指さし)長袖でお願いします。」
「シャツをズボンに入れてください。」

例2)「キリのいいところ」 → 詳細に言語化する
場面を問わず、「作業が一段落したら」という意味で頻繁に使う人も多いでしょう。
外国人材には「~が終わったら」と工程をはっきり言うことで切り上げる目安が明確になります。
例文)「キリのいいところで、休憩していいよ」
やさしい日本語①)「この作業が終わったら、休んでください。」
①で伝わらない場合、さらに文を2つに分けてください。不自然な日本語ですが、伝えるためにはここまでシンプルにします。
やさしい日本語②)「この作業が終わります。それから、休んでください。」
「曖昧な表現」は「数値化」「視覚化」「言語化」を頭に入れて言い換えてみてください。
覚えておきたい建設現場のための表現
最後のワークです!がんばっていきましょう!
建設現場に必要な「安全」と「業務効率化」に関わる表現を紹介します。
【命令と禁止の表現】
建設現場で緊急時に瞬時に伝えられる短い表現といえば、命令形「~しろ」と、禁止形「~するな」です。しかし、外国人材には形と意味が混乱し、実は難しい表現なんです。日常生活では、使う場面が少なく、馴染みのない表現です。また、初級日本語の教科書では後半に取り上げられているため、学習しないで入国する外国人材もいます。建設現場の安全確保のためにも伝え方を覚えておきたい表現です。
「やさしい日本語」では以下のように言い換えることが多いです。
命令:「~てください」
禁止:「~ないでください」

例)
命令形 | 足元、見ろ! |
やさしい日本語 | 足を見てください! |
命令形 | ケーブル、踏むな! |
やさしい日本語 | ケーブルを踏まないでください! |
命令形、禁止形はゲームやスポーツ、標識などにも使われています。
「行け~!」「来るな~!」など楽しく覚えられます。
雑談がてらに話題にするのもいいですね。
【二つの意味がある言葉】
みなさんは、「いいです」「大丈夫」「ヤバい」などの表現で「どっちの意味?」と迷ったことはありませんか?
これらは真逆の言葉の意味二つを持つため、現場で外国人材が意味を取り違えると作業に支障が出てしまう可能性があります。新聞に外国人がこれらの表現がわかりにくいと投書していたこともありました。
これらを使う場合は、以下のように配慮すると意味が伝わりやすくなります。
・「はい」「いいえ」で始める
・表情やジェスチャーを加える
では、上記の配慮を頭に入れて、より確実に伝えるためのワークをしてみましょう。
では、ここでクイズです!
以下の表の日本人の答え方は、誤解を生む可能性があります。
外国人材に明確に伝わるようにするにはどのように伝えますか?
下表の左側の〈例〉を見て考えてみてください!

クイズはいかがでしたでしょうか。右側は参考例ですので、最終的に伝われば問題ありません。言葉に少し具体性を持たせるだけで、明確な文になることを感じていただけたのではないかと思います。この一手間で、一度で伝わり、業務の効率化ができることでしょう。
日本語が話せる雰囲気づくりをしよう
「やさしい日本語」を用いることで、活気あふれる現場の様子が思い描けるようになったのではないでしょうか。プラスして、気にかけていただきたいことがあります。それは、外国人材が話しやすい雰囲気を作ることです。外国人材には、わからないときに、日本人に遠慮して聞けない、緊張するから聞くのを控えてしまうなど日本人と話
すことに壁がある方もいます。
外国人材が質問しやすい、話しやすい雰囲気にするにはどのようにしたらいいでしょうか。
日本人側が「受け入れる」姿勢を持つことが話しやすい雰囲気につながると考えております。
以下、3点ポイントをお伝えいたします。
1.子供扱いせず、大人として対応する必要があります。日本語に不慣れなだけで立派な成人です。自分を認めてくれていると感じると安心して話せるようになります。
2.外国人材の日本語を最後まで聞く。一通り終わったら、確認します。
3.日本人は手を止めて外国人材の話を聞く。自分の話を聞いてくれると安心するでしょう。
*しかし、聞かれたタイミングが悪く、対応がおろそかになるという場合もあります。そんなときのために、「話しかけてはいけない場合」のルールを作るのをおすすめします。外国人材は話しかけるタイミングがわかり、質問しやすくなるはずです。
例)機械を動かしているときはダメ、人と話しているときはダメ など
「受け入れる」ことは、もどかしい部分もありますが、外国人材の日本語を聞くことでコミュニケーションができ、業務がはかどるようになります。また対話することが日本語の上達につながります。ぜひ話せる雰囲気づくりに意識を向けていただけたらと思います。
日本語が飛び交う明るい現場に
2回にわたって、お伝えしてきた「やさしい日本語」はいかがでしたでしょうか。
日本語を公用語にすることで、さらに明るく効率的な現場になること間違いありません。
「やさしい日本語スイッチオン!」で今日もご安全に!
イラスト:前田さき |