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「豊かな生活」を実現する

 わが国では、都市であるほど、住環境や生活環境が、そこに居住する者の所得や生産力の割には貧しいものになる等、持ちうる経済力と居住環境との逆転現象が生じてしまうのが現実です。これは、富の再配分という社会政策のあり方を反映しているとはいうものの、傾斜が過剰になると、経済循環を停滞させ国民経済を逼塞に追い込んでしまうことになります。
 また、住環境や生活環境の改善のためには、公共投資を上回る民間投資が誘発されることが必要ですので、民間投資が期待できる箇所に公共投資を有効におこなうことは、政策課題の実現のためには必要な施策となっています。
 これらの視点から、次の項目が課題となってきます。

 

重要な納税者の公平感、費用対効果

 東京など都市部では、生活者の居住水準が大きく劣っている実態があります。住宅建設計画において国の定めた誘導居住水準を満たさない世帯の割合は、全国平均で58.1%ですが、京浜葉大都市圏で66.5%、東京都では77.0%と、都市になるほど高くなっており、中でも東京都の民営借家では84.5%に達するなど、社会資産としての住宅の質が低いことがわかります。また、持家住宅の居住水準は、一般的に高くなりますが、例えば東京都の持家率は39.4%、京浜葉大都市圏でも50.2%と低く、全国平均59.5%や、例えば富山県の79.5%を大きく下回っています(平成5年住宅統計調査)。
 また、都市部においては、公共投資も相対的に少なくなっています。人口一人あたりの公共工事額では、全国平均の60〜70%程度で、地方部に対しては1/3程度でしかありません。国費からの補助額だけをみても、全国平均の40〜50%、地方圏に対しては1/5〜1/10の水準となっています。
 公共投資は、社会資本の整備のための重要な経済活動であり、社会資本整備が遅れている地方部にある程度の優先的な配分が行われることはありえますが、その差が極端なものとなると、都市部において有効な社会資本整備が実現しないばかりでなく、納税者の不公平感や、付帯すべき民間投資の閉塞を招くおそれがあります。また、現在の財政事情から、大きな増額が難しい場合には、費用対効果の視点も必要となりましょう。
 このため、都市居住者の不公平感をやわらげ、公共投資を期待される経済効果に直結させることを目指して、都市部への公共投資の配分を見直していくことが必要です。特に民間投資への刺激や、住宅関連の波及効果を考慮すると、都市部において十分とはいえない住宅施設への投資を増強し、「住生活を豊かに」する効果的な投資を行っていく必要があります。

 

生活者の視点から公共投資見直し

 都心部での住宅供給施策というと、条例による住宅付置義務制度が既に存在しますが、これはビル建設など民間活力の一部を機械的に住宅建設に振り向けるもので、活発な建設活動に伴って住宅が整備されることにより都心部の住宅戸数増に寄与しています。しかし、公共投資によるインフラ整備など計画的な居住環境づくりを伴っていないため、結果として半端な単位でしかも高家賃の住戸が作られたり、既存コミュニティから乖離するなど、本来の目的であった実際の居住には役立たない傾向があります。その上にビル内に異なる用途が混在するために、共用部分の合理的な設計ができなくなるなど、特に小規模な事業における事業意欲を著しく阻害することがあるのです。
 都市部での住宅への公共投資を具体的に見ていきましょう。直接的には、公営・公社・公団住宅などの公共賃貸住宅の直接的な整備や、借上げ公営住宅・特定優良賃貸住宅など民間と連係した住宅整備があげられます。また、都心部の既成市街地において、市街地更新が進まないまま取り残された住宅街区が存在する実態を考慮すると、老朽賃貸住宅の建替え助成など、民間事業の推進施策、さらには、それらが自律的に進むための環境でもある道路や公園など都市基盤の整備も、都市の住生活を豊かにする事業といえます。限られた公共投資を有効に活用するためには、インフラを整備して民間の自発的な活力を引き出す政策は特に有効といえます。
 公共投資を都市生活者の視点を加味して見直し、都市部の住宅・生活関連に対する投資配分を増やすことで効果的な投資が行われれば、都市における生活の質的向上がはかれるばかりでなく、景気への波及効果も大きくなります。景気回復効果としては、これらの他に、大都市圏において停滞している土地流通が活性化されることも指摘してよいでしょう。

 

安心感を付与し個人投資誘導

 生活の基盤である住宅の整備は、むしろ民間投資により進められています。なかでも分譲住宅など個人が自らの生活のために行う投資は、居住水準の向上など質的な貢献が大きく、わが国の住宅水準を向上させてきた原動力であったといえます。
 しかし、昨今、経済情勢による所得の低下やリストラの進行による雇用不安などにより、個人の循環的な投資活動が停滞し、住宅市場が一次取得者に大きくシフトしたり、中古住宅の流通が滞ったりする傾向が発生しています。このまま放置すると、個人投資による推進力を失ったわが国全体の住宅供給は、ついに閉塞して居住水準の向上や、良質なストック蓄積に大きな支障を与えかねません。
 市場を活用することで、住宅投資が円滑に循環するためには、持家住宅による個人投資の誘導があらためて必要になっています。このため、二次取得者など中高年層も含めて安心して自らの居住改善に投資を行えるよう、既に取り組まれつつあるローン残高等に対応した税控除制度を一層充実させ、恒久的な社会システムとして定着させることが必要になっています。
 また、既に民間では取り組まれていますが、個人の雇用不安等への対処として、失業や事故・疾病など予定外の所得喪失に対応したローン保険制度の充実をはかることも有効な施策といえましょう。
 なお、近年、不動産の証券化、定期借地権付住宅などの新しいシステムが開発、商品化されています。これらについても、より分かり易い、そして利用しやすい仕組みをつくりあげていくことが必要です。

 

住宅の選択循環で地域内定住

 分譲住宅を安定的に供給して、都市部の居住水準を向上させるためには、中古住宅の流通や経年住宅のリフォームによる安定した循環が必要になります。フローとしての新築ばかりでなく、そのままでは居住環境として固定化されているこれら住宅ストックに対しても、適正な誘導をおこなうことが必要です。
 従来、住宅水準の向上やコミュニティの活性化のために、持家取得による「定住」が良いこととされ、これを推進させるための施策や文化が定着してきたきらいがあります。しかし、個別の生活者についてみれば、若年時に無理なく取得できる住宅への定住にこだわっていては、生活の質的向上は望みにくいといえます。特に都市部の大部分を占める集合住宅は、増築等の従来の方法による水準向上をはかりにくく、生活ステージの進展にともなる住み替えが必要になります。
 これまでの住宅保有では、このような意識とは別に、不動産価格の上昇が一定の住み替えを誘導し、自動的に適度な住み替え・建替えを実現してきていました。しかし、今後の安定社会では、不動産の値上がりを期待するのではなく、これに依存しない住み替えの意識を誘導することにより、生活ステージやライフスタイルに適合した住宅への住み替え・建替えを促進していく必要があるのです。
 これらの事情から、居住者意識についても、特定の住宅に固執する従来の定住ではなく、地域において最適な住宅を選択循環していく「地域内定住」への理解をすすめる必要があります。その結果、個別生活者の居住水準の向上だけではなく、住環境への改善・向上の意識も普及することが期待できます。
 特に都市部では、住環境水準の低い時代に蓄積された居住施設ストックが多く、狭小で過密な居住環境を形成しています。このような都市部で、住戸を居住者を固定した定住のままでは、密度的にも限界があるうえに合理的な生活対応の計画を実現しにくくなります。都市部で居住水準を向上するためには、ストックに見合った居住者の誘導と、拡大が必要な居住者の新たな住環境への移動が必要になります。けっして追い出すということではなく、自主的な近傍での住み替えを促進することで、全体のレベルアップを図ることが期待されているのです。

 

計画はあるが、遅々として進まぬ交通網

 都市がその機能を発揮するためには、都市内、都市間を結ぶネットワークが必要です。その代表は、道路、鉄道です。ところが、日本最大の都市・東京の交通事情は、通勤、通学に要する時間と混雑に代表される日常生活上の支障にとどまらず、物流等の経済活動面にも大きなロスが生まれ、国際競争力にも影響を与えています。
 東京都心部の交通渋滞緩和のため、国、都、区、市の各レベルで計画、構想あるいは整備が進められています(次々頁掲載「東京圏の環状道路」参照)。
 その中でも、建設省と東京都が昨年4月策定した『都市構造再編プログラム』は、@都市計画道路の整備推進、A都市道路と沿道建築物との一体的整備、B沿道の土地利用転換の促進−−を柱とし、具体的対象路線と必要投資額を明示することによって、@民間投資を誘発 A公共・民間の連帯による都市の再構築促進 B経済の活性化を図る−−起爆剤となるものとして期待が寄せられています。
 鉄道網についても、昨年着工した常磐新線、一部営業を開始した都営地下鉄12号線、多摩都市モノレール、さらに連続立体交差事業等、計画中も加えると実に多くの路線が整備されることになっています(次々頁掲載「鉄道・モノレール等の整備計画」参照)。
 しかし、これらの道路、鉄道整備の多くはかなり以前に計画がたてられ、一部は工事を行っているものの全線開通にいたらないため、交通事情の改善効果が出ていないの実情です。これは「計画はあるが用地買収、資金事情等で整備が遅れる」ことが直接的要因です。その背景には「整備計画の立案に際して生活者の関わりが薄い」ことがあるのではないでしょうか。

 

地域の理解得るためにも重点的予算を

 地元生活者が、その事業と地域との関連性、事業の必要性等を十分認識できないうちに事業が決定されると、工事中、完成後のマイナス面に対する意識、つまり被害者意識だけが大きくなってしまい「反対」等の事業停滞要因につながることになります。そして、事業の停滞は、整備資金の嵩上にも影響するなどの悪循環を招くことにもなります。
 これからは、都市生活者の参加意識を高めるためにも、社会資本整備の目標値、換言すれば「現在ある計画の妥当性を生活者の視点にたって説明を行い、生活者の理解を獲得していく」ことが必要になります。事業者が説明責任を果たすと同時に、そこに幅広い人々が参加できる仕組みを作ることが求められます。
 また、事業に当たっては、着手から完成までの期間を可能なかぎり短縮することが望まれます。これは、「事業該当区域の日常生活・業務活動への影響を最小限にとどめる」「期間が短縮されることによって事業費が縮減される」「完成を早めることによって事業の効果が早く現われる」等のためです。このためにも、重点的な予算配分が必要となるのです。

■東京圏の環状道路(建設省作成資料より)
tokyo06.jpg (48233 バイト)

■鉄道・モノレール等の整備計画(東京都作成資料より)
tokyo07.jpg (33546 バイト)


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