第1回(2023年7月号)に続き、誌上スタディーコースとして、今日から取り入れられる若手社員育成の具体策をお伝えします。ありがたいことに、第1回を読んでくださった方から、「面白かった」「役に立った」と反響をいただきました。第1回を読んでくださった方も、まだ読んでいない方も今日からすぐ活用できる施策をご紹介致します。なお、第1回の内容は当協会ホームページよりご覧いただけます。
第1回の内容をダイジェストでお伝えします
✔「若手社員はすぐ辞めてしまう」は本当か
若手社員は「転職よりもいまの会社で長く働き続けたい」という傾向であることがわかった。
✔企業の現場が見落としがちな若手の背景
コロナ禍に学生時代を送ったことで、不安を感じやすく、安定志向が強くなっている。
✔若手社員が求めているもの
コミュニケーションでは背景や特性を知ることで、「相互理解」ができる。
✔ 今日からできる具体策1「成長実感を持ってもらう」
不安を感じやすい若手社員に対しては、「成長実感」を持ってもらう。
今日からすぐできる具体策として、目標設定をしたり、成長を確認する声がけのしかたをご紹介。
第2回となる今回は、さらに成長実感の持てる声がけのしかたと若手社員がつい前のめりに取り組みたくなる工夫のしかたをご紹介します。
成長実感を語る前に知っておきたい若手の現実
弊社では、建設業をはじめとして、若手社員に研修でお会いする機会が多くあります。研修の場で感じるのは、ここ10年ほど、若手がコミュニケーションを諦めている実態です。
若手からあがる声は、「上司が何を考えているかわからない、話をしてくれない、自分とのコミュニケーションを諦めていると思う」というものです。業界を問わずよく聞かれますが、建設業は特に多いと感じます。
若手を受け入れる側のみなさまは、「自分から声をかけてこないのに、話をしてくれないとはどういうことか!」と感じられるかもしれません。ですが、上司や先輩とのコミュニケーションを諦めた結果、やがて仕事への意欲も薄れていくケースもあるようです。若手のみなさんは、好きなSNS、ネット、会員制のサイトなど自分が好きな考え方や仲間を選んでコミュニケーションを取ってきた世代です。特に、コロナ禍に学生時代を送ってきたZ世代(20代前半)の方は、オンラインで授業を受けてきたため、登校する機会が少なく、共同作業の経験がないことは前回のコラムでお伝えしました。コミュニケーション自体が少なかった学生時代を過ごしたにも関わらず、社会人になり突然、背景も年齢も考え方も異なる人たちと“積極的に”コミュニケーションを取ることを求められるわけです。当然のことながら、背景も年齢も異なる人にどのように接したら良いかわからず、上記の通り「上司が話をしてくれない」という諦めが生まれてしまうのです。
今日からできる具体策1
「成長実感を持ってもらう」
※第1回コラム参照
今日からできる具体策2
「コミュニケーションが取れない若手に今日からできる声がけのしかた」
この状況に対して、今日からできる対応策があります。基本的なことですが、相手の状況を理解して、少しずつ「話しかけて」いただくことをお薦めします。「仕事を覚えろ」といっても、何をどう覚えたら良いかわかりません。自分で考えてみろと言っても、若手には教えられることなく求められることが、突き放されたように感じてしまうのです。
一方で上司の方からご相談を受けるのが、「自分から話しかけてこない相手に、こちらから話しかけるなんて一体何から声をかけたら良いのか…」というお悩みです。そんな時は、【質問をする】ことで、話をすることをお勧めします。
具体的には、
・最近どんな現場に行っている?
・何ができるようになった?
・困っていることはあるか?
といった基本的なもので十分です。質問は非常に大きな力を持っています。まず、相手が自分に興味を持っていると感じてもらうことができます。また、自分が思ってもみないような、相手の考えを聞くこともできるのです。時には、期待とは逆に「そんな低い視点で考えていたのか」とがっかりするような答えが出てくるかもしれません。そんなときは、質問をしたおかげで、教育すべきポイントが見つかったとプラスに受け取ってみてください。
また、質問に慣れてきたら、
・この道具をどうやって使うと思う?
・今回の現場、誰にどう仕事を依頼する?
・納期に間に合わせて事故が起きないようにするには、どうしたら良いと思う?
というように、テーマを持って質問をしてみてください。ここで大切なのは、みなさんは答えを持っていても、“教える前にあえて聞いてみる”ことです。たった一言ですから、10分もかかりません。質問に切り替えるだけで、若手がどこまで技術を習得しているか、どんな考えを持っているか、相手の現状をこちらの思い込みでなく把握することができます。簡単なようで、自分が答えを持っている内容を“あえて聞く”というのが、難しい点です。人はどうしても、答えを教えたくなり、口を出してしまうことがあるからです。
私は、管理職の方向けに面談の練習をすることがあります。上司役の方が部下役に質問をしたり、アドバイスをしていきます。ここで上司役の方が陥るのが、途中から話を奪い、アドバイスを続けてしまうことです。部下を育てたい、あれもこれも習得してほしいという思いが強いほど、相手の答えを十分に聞く前に、口を出してしまうのです。こうなっては、せっかく質問をして若手が「自分のことを受け入れてくれている」と感じた思いも、「自分の思い通りに動かしたいだけなのか」とガッカリさせてしまうことになります。
ぜひ、1つで良いので、「質問」の力を使い、経験豊富なみなさんとは違う価値観を持った、若手社員の本音を引き出すコミュニケーションの切り口を作ってみてください。
今日からできる具体策3
「若手が前のめりに仕事をしたくなる工夫をする」
「みなさまは、若手の頃、一番成長したのはどのような時でしたか?」
これは、かつて私自身が管理職研修で問いかけられたものです。周りの管理職の方も含めて、多くの方が「時間も忘れて夢中になって仕事に取り組んだ経験」を挙げ、それぞれの武勇伝で大変盛り上がりました。
私はその時、一番成長した時期として、サービス業で全国を回る教育担当と、店長を兼任していた時期を思い出しました。朝8時から開店作業のために出勤、夜は閉店後の締め作業、時には棚卸しのために帰宅が2時、3時になることもあった時期です。20年以上前のことで、時代背景もあり、自分のプライベートのことなど考えず、思い切り働くことのできた時期です。時には、3ヶ月以上休みなしという時期もあり、そのことを店長会議で「市場店長は休みなしで働いている、みんな見習え」と褒められたこともありました。
当然、Z世代の方たちは、「そこまでして仕事をしたくない」と思っていると思いませんか?実は、株式会社リクルートが実施したアンケートから予想外の実態が見えてきます。企業が残業を減らし、パワーハラスメントを減らして職場環境を改善してきた結果、厳しく鍛えられる機会があまりないと感じている若手が増えている(就業者の転職や価値観等に関する実態調査2022」参照)というのです。頑張りたい時に頑張れない、だから、「成長実感が持てない」というわけです。
厳しくするのも時代に合わない、でも、成長実感は持ちたいという、一体どうしたら・・・と思いますよね。そこでお薦めする方法が、教育業界で最近取り入れられている、「ゲーミフィケーション」という考え方です。ご存知の方もいらっしゃるかと思いますし、横文字が出てきて苦手と思われる方もいらっしゃるかもしれません。ですが、みなさん体験したことがありますし、今の業務にすぐ付け加えることができる工夫です。
みなさま、ボードゲームでも、RPGゲームでも良いですが、ゲームで遊んだことはありますか?ついつい、夢中になってしまう、次のステージに進みたくなる、挑戦して失敗することもあり、もう1回チャレンジしたくもなる。ゲームには夢中になる仕掛けがあります。この仕掛けを仕事や学びに取り入れたものが、「ゲーミフィケーション」です。
例えば、私が資格取得のための勉強をしたとき、忙しい中で時間を確保するのが難しいため、途中で投げ出すことがないか不安でした。ですが、どのような学びのステップがあるか、成長の道筋を見ることができ、1つクリアするごとにオンラインでメダルがもらえる仕組みになっていたことで、むしろステップを進むごとに成長を実感して最後まで取り組むことができました。人の心理として、メダルが揃いだすと、全部揃えたくなります。10個、20個と区切りごとに「頑張ったね!次のステップにチャレンジしよう!」と承認のメッセージをもらえると、もっと上達したくなります。他に、ポイントがもらえたり、レベルが見え、挑戦できるというのがこのケースでのゲーミフィケーションの仕掛けです。
建設業でもゲーミフィケーションを取り入れることができます。簡単なことで良いので、若手が今取り組んでいる仕事の先のステップを書き出します。例えば、現場監督を目指すのであれば、いつまでにどんな仕事が待っているかというこの先の道筋を、大まかでも良いので見せるのです。できれば、書き出して「見える化」することがお薦めです。次のステップに挑戦し、ステップを制覇するごとにチェックを入れるなど、クリアしたことが実感できる工夫があると、若手はさらに成長実感を得ることができます。
「社内の技術の地図」を活用し、ゲーミフィケーションで楽しくレベルアップ! |
弊社のクライアントでは、第1回のコラムでご紹介した「スキルマップ(社内の技術の地図)」にゲーミフィケーションを組み合わせて、クリアするごとに枠を塗りつぶし、レベルが上がったことを目で見て実感してもらう、という仕組みを取り入れています。クリアを目指して、ここがうまくできた、ここができていないというフィードバック(言葉がけ)を加えると、さらに成長実感を持つことができ、効果的です。現代の就労環境に合った方法で、時間も忘れて夢中になって仕事をし、自律的に仕事をしていくことができるようになります。できることからで構いません、ぜひ、取り組んでみてください。若手の変化から効果を実感していただけると思います。
次回は第3回「成長実感のできる褒め方・叱り方」をご紹介します。
ぜひ、お読みください。