この再生プログラムの作成に当たっての基本は、中堅・中小建設企業の特徴である地域社会、地域行政、地域住民との融合密着型企業の性格や機能や行動力を、最大限に発揮することによって、地域社会の理解と信頼を高め新たな時代における企業の成長発展の途を見出していくことにありました。
それをわかりやすく表現すれば、地域の行政機関や住民に対する「より安全で快適で効率的な地域づくりのために、私たち地元建設企業を積極的に活用してください」との呼びかけであり、同時に「私たち地元建設企業は地域に役立つための企業努力を全力で行っていきます」との宣言だといえます。
これまで私たちは、発注者から要求された建設物を立派に完成させることが、企業責任であるとの意識に立って企業活動を行ってきました。そのためにややもすると、私たちの目的が工事を受注しそれをつくりあげることだけがビジネスであるように、地域の人たちからとらえられてきた感じがします。
しかし、私たちのつくりあげた建設物は、長い年月にわたって多くの人々に使用されながら、社会的な価値や経済的な価値を生み出していくことになります。その価値を改めて見つめ直し、最大限にしていくには、どのようにつくればいいのか、つくった後に何をすべきかを、ユーザーの立場になって考え、そのために私たち中堅・中小建設企業が何をやろうとしているのか、何ができるのかを、より多くの人に知ってもらうことが地域密着型企業の基本といえます。その基本理念に立って、それぞれの企業がそれぞれの経営の方向と戦略を検討するためのヒントにしてもらうことを期待して、この再生プログラムを作成しました。
これまで私たちは、他産業と比較した場合の建設業の特殊性を意識して、その特殊性をハンディキャップと考え、建設業だけの価値観で私たちにとって都合よく解釈し、甘えてきたところがあります。
しかし、その甘えはこれからは通用しません。
どの産業にもそれぞれの産業特殊性はあります。その特殊性をどう活かせば社会に貢献ができるかを考え、それを企業の経営や活動に具現化していくことが、建設業だけでなくすべての産業に等しく望まれているといえます。そうした社会的責任を果たしていこうという姿勢や努力が、企業の評価や信頼につながり、企業の発展的存続にもつながる時代なのです。
社会的責任を果たすということは、企業がボランティア活動を行うということではなく、時代の価値観や要請に立脚して、効率的な高収益体質の企業をつくり経営していくことが、社会的責任を果たすことです。
その意味では、これまでのように建設業全体としての社会貢献を標榜するのではなく、大手企業、中堅企業、中小企業がそれぞれ独自の社会的責任の果たし方、個々の企業の評価と信頼の高め方を競い合う時代に入ったといえます。
その競争をしていく上で、時代の流れは中小企業に有利な要素を提供してくれつつあります。
2001年1月からの国土交通省、地方整備局のスタートや、地方分権と地方自治体の自主性尊重の動きは、地方行政機関と地域住民が一緒になった地域づくりを、より鮮明にしていくきっかけとなるものであり、これは地域密着型企業にとって活躍の場が広がる追い風でもあります。中小建設企業に与えてくれた時代の流れの配剤ともいえるかもしれません。
21世紀はすべての産業の企業モラル、技術者モラルが厳しく問われ、それに応えられない企業や技術者は淘汰される仕組みが、より鮮明になってくるでしょう。
その仕組みの中で勝ち残れる企業体質と企業経営を確立することが、同業者同士の競争にも勝てることだといえます。
現在の経営事項審査制度による企業評価方法が、将来にはビッドボンドの導入による民間機関の企業評価や格付けに移行することもあり得ることを念頭に置き、どのような評価制度においても生き残れる企業の基盤を確実に築いておかなければなりません。
この再生プログラムは、中堅・中小建設企業だからやれること、やらなければいけないことをそれぞれの企業に見出してもらい、「中堅・中小建設企業らしさ」を競争ファクターにしてもらうためのヒントになることを願って作成しました。
従って、「正解」を提示しているわけではありません。
「正解」を導き出すのは、個々の企業自身です。
そしてその「正解」は、地域社会に地域の人たちに、「皆さんにとって一番いい地域づくりを、皆さんと一緒にやっていきませんか。私たちは皆さんの仲間の一員となって、最大限の努力をしていきます。首都・東京を21世紀の私たちのふるさとにしましょう」と呼びかけることから見出
していけると考えます。
なお、東京建設業協会も、この「再生プログラム」の作成を契機として、会員企業の新しい経営戦略への挑戦や努力に対して、情報提供などの支援を積極的に行っていきます。
とくに、中小・零細規模の会員企業が、適正に発展していくための啓発・指導となる活動を強化していく方針です。 また、大手企業会員が持っている技術やノウハウを、中小企業会員に指導的に伝授していただくことを期待してやみません。