概要
はじめに
2008年6月に洞爺湖サミットが開かれましたが、地球温暖化対応は、今世紀最大の課題です。その最初のステップとなる1997年に締結された京都議定書の温室効果ガス総排出量の2008年から2012年までの6%削減目標ですら達成は非常に厳しいものとなっており、地球温暖化防止のための効果的な具体策を緊急に推進していくことが求められています。
建設業においては、日建連加盟企業が「環境保全自主行動計画」に基づき建設工事から直接排出されるCO2について厳しい業界目標を定め、活動を推進しています。しかし、建設工事が誘発するCO2排出量は、建設資材生産や運輸等の生産誘発効果まで含めると国内総排出量の約10%を占め、さらに施設が完成した後の運用段階まで含めると、40%強を占めるとされており、建設企業全体が間接的な影響にまで配慮して活動することが社会的責任となっています。
このように、中小建設業においても、地球温暖化対策を避けて通れない状況となっています。CO2排出量を減らすことは、生産のムダを減らすことです。省燃費活動等により利益確保の観点からも効果大となります。さらに、昨今の金融危機に始まった大不況への景気刺激策として環境投資誘導が図られつつあり、受注環境の厳しい折、総合評価制度等の入札において、こういった環境対策を積極的に提案することで、逆に受注機会を増やすことにも繋がりますので大いに活動を推進していくことが重要です。
◆グラフ1「日本のCO2排出量と建設業のCO2排出量」
※資源エネルギー庁「総合エネルギー統計エネルギーバランス表」、国立環境研究所「環境負荷原単位データブック(3EID)」、経済産業省「簡易延長産業連関表」による推計
地球温暖化とは
ここで、あらためて地球温暖化の概略を把握しておきましょう。
ここ百数十年、平均気温が上昇し続け地球全体の急激な温暖化現象が観測されてきました。
急激な地球温暖化の影響で、平均海面が上昇し沿岸域が水没したり、極地や高山の氷河が溶け出したり、異常気象が頻発し大水害が発生したり、動植物の種類、数、分布が変化したりするなど重大な地球環境問題が起きています。
急激な温暖化の原因が産業革命以降の人間活動による温室効果ガスの増加、とりわけ石油石炭など化石燃料使用によるCO2増加にあることがIPCC 第4次報告書により明らかになりました。地球が吸収できるCO2は年間31億炭素トンなのに対し、人間が毎年72億炭素トンを排出している現状にあります。地球温暖化を緩和するには、現代の生産・流通・消費・廃棄に亘るCO2排出の在り方を見直し、低炭素社会への早急な転換が必要です。
また、緩和対策を行っても今世紀中にCO2濃度が下がるわけではなく、1.1〜2.9℃の温度上昇が予測されています。この避けられない温暖化影響への適応が必要です。
国際的には2012 年までに京都議定書目標の達成、2020〜2030 年の中期目標設定、2050 年の長期目標設定、目標設定への主要な排出国の参加が課題となっており、我が国も京都議定書目標の達成、次期枠組への積極的貢献が期待されています。
中小建設業のCO2排出量
公表されている資料より、中小建設業のCO2排出量を試算してみました。
政府が京都議定書に基づき、国際事務局へ毎年報告している資料によると、建設業の1990年度のCO2排出量は4,068炭素キロトン(1,492万トン-CO2)、2007年度は3,187炭素キロトン(1,169万トン-CO2)となっており、この17年間で22%のCO2削減が成されたことを示しています。
一方、建設3団体(日建連・土工協・BCS)の調査によると、加盟企業のCO2総排出量は、1990年は923万トン(14社・501現場)、2007年は513万トン(40社・1,524現場)となっています。
◆グラフ2「建設業全体の1990→2007年CO2総排出量」
※データ出典:資源エネルギー庁「総合エネルギー統計エネルギーバランス表」、国土交通省「建設工事施工統計調査報告」
◆グラフ3「建設3団体加盟企業の1990→2007年CO2総排出量」
※建設3団体が加盟各社にCO2排出量と削減活動をアンケート調査し、施工高あたりの原単位実績を毎年発表。
上記を併せて、建設業全体の数値から建設3団体の調査数値を減じて中小建設業の排出分を推計してみました(表1)。
すると、1990年度から2007年度までに建設3団体は総排出量も原単位も削減していますが、中小建設業は総排出量も原単位も増加しています(グラフ4・5)。原単位は中小建設業に比べ建設3団体が非常に大きく、まだまだ努力が必要です。建設3団体の原単位が大きいのは、超高層工事、地下工事などエネルギー原単位の大きな工事が多いためと考えられます。
中小建設業はCO2を建設3団体のように贅沢に使ってはいませんが、伸び率が大きいので、増加に歯止めをかける必要があると言えそうです。
◆表1「建設3団体と中小建設業のCO2排出量と原単位」
項目 | 建設業 | 1990 | 2007 | データ出典 |
工事高 千億円 | 全体 | 1,220 | 857 | 国土交通省 完成工事高 |
3団体 | 262 | 168 | 建設3団体(日建連・土工協・BCS) 地球温暖化防止対策ワーキンググループ 「2007年度CO2排出量調査結果」施工高 |
中小建設業 | 958 | 689 | 推定=(全体−建設3団体) |
CO2排出量 万t-CO2 | 全体 | 1,492 | 1,169 | 資源エネルギー庁「エネルギーバランス表」 |
3団体 | 923 | 513 | 建設3団体 経団連報告値 |
中小建設業 | 569 | 656 | 推定=(全体−建設3団体) |
原単位 t-CO2/億円 | 全体 | 12.2 | 13.6 | 当HPでの計算値 |
3団体 | 35.2 | 30.5 | 建設3団体 |
中小建設業 | 5.9 | 9.5 | 当HPでの計算値 |
◆グラフ4「建設3団体と中小建設業のCO2排出量推移」・グラフ5「建設3団体と中小建設業の原単位推移」
※表1の黄色の部分をグラフにしました。 原単位には業種により値に差があります。ここでは建設業全体として算出しています。
中小建設業にできること
京都議定書目標達成計画では、CO2排出を7部門等に分けて、排出量を調査(グラフ6)し、対策・施策を整理(表2の施策)しています。この中では建設業は、排出量が最大の「産業部門」の中に位置づけられています。
建設3団体による「建設業の環境保全自主行動計画」におけるCO2削減対策も削減勘定に見込まれています(表2の中間列)。
建設業はグラフ1で示したように建設工事を通じて他部門等のCO2排出に大きく影響を及ぼしており、そのウェートの方がはるかに大きいので、他部門等の施策に影響を及ぼしうる活動を含めて、この表の右側にフェーズごとに整理し直し、表3に中小の建設業にできるCO2削減対策、および効果の大小、取組の難易度を評価してみました。
また、先の7部門のうち、増加の著しい業務その他部門と家庭部門について、政府は平成20年12月「温室効果ガス排出抑制等指針」を定め、事業者の講ずべき措置に関して指針を公表しており、表2に示した対策に関する設備等更新の措置例が示されています。
ここからも中小建設業の関与できる具体的な活動のヒントが得られます。
是非これらを参考に、出来ることから今すぐに取り組んでいきましょう。
◆表2「京都議定書目標達成計画に関する対策・施策」 温室効果ガスの排出削減、吸収等に関する対策・施策の進捗状況
◆表3「中小建設業の温暖化対策」
フェーズ | CO2削減対策 | 効果の大小 | 難易度 |
受注・施工計画 | 設計VE提案(構工法・建築設備)、施工計画での配慮 | 大 | 難 |
改修・リフォーム提案での配慮 | 大 | 並 |
調達 | グリーン調達(鉄・セメント) | 中 | 並 |
施工 | 機械燃料(軽油・灯油)・電力の節約 | 小 | 易 |
運送での省燃費運転 | 中 | 並 |
オフィス・家庭 | エコライフ・エコドライブ | 大 | 並 |
CO2削減量の算定方法 |
◆グラフ6「CO2の部門別排出量(電気・熱配分後)の推移」
※データ出典:国立環境研究所「温室効果ガスインベントリ」より
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